NPO法人設立にあたって

NPO法人小児遠隔画像診断支援協議会
副理事長  藤岡 睦久

この度のNPO法人設立にあたり、ひと言、私のNPOに懸ける思いについて述べさせていただきます。

 

私が、昭和55年までピッツバーグ大学助教授として小児病院で活動していた折に、我が国の或る小児科教授が見学に来られ、小児の全画像診断を小児放射線科医が行っているのを見て当時の私の上司である主任教授に質問をした際の主任教授の返答が今でも忘れられません。

「世界中で画像診断は放射線科医がやっているのは当たり前のことで、それをやっていない貴方が、やっている我々にその理由を聞くのはおかしくないか?むしろ、なぜやっていないかを聞きたいのはこちらの方で、それに答えるべきではないか?」でした。

また、帰国後に世界の学会に行くようになりましたが、そこで 『世界中どこの国でも、小児病院に限らず、すべての病院で医師の総数の10分の1程度の放射線科医が常勤しているのが世界の常識である』 ことを知りました。それは欧米でも、アジアでも当たり前のことでした。

その後、小児病院の立ち位置がはっきりしない我が国において、小児医療の制度を根本から変革するには大学から発信するしかないと決意し、昭和63年に獨協医科大学に赴任しました。以降、日本小児放射線学会理事長兼会長、アジア・オセアニア小児放射線学会初代理事長、北米小児放射線学会名誉会員、ラテンアメリカ小児放射線学会名誉会員に推挙されて参りましたが、私の本当の目的は 『わが国の小児医療の中で放射線診療をどのように国際化するか』 の一点にありました。

我が国以外のアジアの国々は、『すべての放射線医療は放射線科医の手によって行われる』 という国際標準で行われています。近代医療に於ける基本的、国際的な共通認識は 『画像診断は放射線科医という直接患者の診療に携わらない第三者の専門家が実施することにより、医療の科学的根拠が保たれる』 ということです。

 

言うまでもなく、医療は非常に特殊な領域にあり、国際的な共通認識と共通の形態で行われなければなりません。

 大人の医療は身体の出来上がった成人、言うならば健康人のための医療ですが、小児医療は先天性異常などを含む例外のための医療です。しかも月齢により身体はどんどん発達、変化していきます。また、発達期における放射線被ばくの影響も大人と小児では大きくなることは事実で、少ない検査で原発性疾患以外にも隠れた疾病や原因を究明することが求められます。

米国のマサチューセッツ小児病院には小児放射線科医だけで70人おります。日本中の小児放射線医療に専従する放射線科医の数よりも多いでしょう。

世界とこれ程の格差を今日までかたくなに保ってきた我が国の体制を変えることはほぼ不可能ですが、少なくとも小児医療について世界と共通の舞台に登れる医療を実施したいのです。

それを実現するために我々はNPO法人を立ち上げました。我が国における小児画像診断の専門医は、全国にみても公立病院の退官医を含めても数十人しかおりません。また、我が国の小児専門病院で諸外国並みの放射線科の専門医がそろっているところは非常に少なく、たった一人の非常勤診断医が定期的に病院を訪問し、画像診断をこなしている小児病院も少なくありません。そのような病院は専門医を雇用したくとも絶対数が不足しているためにできないのが現状と思われます。

また、そのような医療環境の中で、放射線科診断医が全ての画像診断を行えないことから、臨床医が画像診断を行うことを医師の中でも認めてしまっている状況も見受けられます。それが医療事故などの根本にあることも指摘させて頂きます。

小児の医療は例外の医療であり、その国の文化レベルを表すものとさえ思われます。

小児医療が経済的にペイすると思っている国はどこにもありません。米国ではすべてを寄付で賄っていますが、その時々の最高の医療設備は先ず初めに小児病院に導入されるというのが専らです。小児医療にどれだけ熱心であるかは、その国の文化度を推し測る物差しにもなり得ましょう。

我々のNPOは、世界に通用する医療を我が国のこどもたちに提供することを目的とし、かつそれに携わる医師が国際的に通用しうる臨床研究成果を国際学会へともって行ける学術体制を作ることをも目的とします。

例外の医療ということは稀有な疾患の症例数が少ないことであり、そのために広い地域から同一疾患の症例を集め、その分野での専門家を養成することが必要だということです。

現在の小児医療体制ではそれがままならないので、遠隔という手法を用いて情報を収集し、症例を集約することが重要となります。

以上をご勘案の程、皆様方のご支援とご協力とを、どうかよろしくお願い申し上げます。

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